「チカちゃん、どうしたの、話って。」
昼休み。それも、いつもよりだいぶん早い時間。
セイジが来るよりも先にここに来るように、アタシはミーを呼んでいた。
「ううん、なんて言ったらいいのか……。」
頭をガシガシと掻く。呼んだはいいものの、何と切り出せば……。
「ええい、ウジウジと。アタシらしくもない。……ミー!」
「えっ、うん?」
「ミーさ、その……、アタシに、何か隠してない?」
アタシの決断。それは、ミーに直接たずねてみる、というものだった。
愚直だと、笑うのなら笑えばいい。アタシには、これ以外の方法なんて思い浮かばない。
しばらくの間があった。
その間、アタシは何も言わなかった。目もそらさなかった。
ただじっと、ミーの答えだけを待つ。
「……うん、ごめんね。」
そして、ミーはぽつりとつぶやいた。
「うん、私、チカちゃんに隠し事してる。……でもね、お願い。これだけは信じて。絶対に、悪いことじゃないから。」
でもその回答は、少しだけ、アタシの予想からは外れていた。
隠し事の内容なんて、まったく見当もつかないけれど。悪いことなのは、間違いないと思っていたから。
「悪いことじゃない?だったら、なんで」
「隠さなきゃならないのは、何も、悪いことだけじゃないんだよ。チカちゃん。」
ミーが、少し笑った。
なんだかイタズラっぽいような、そんな笑顔。
「絶対に、教えてあげるから。だから、今だけは。気にしないでもらえないかな。」
「本当に、教えてくれる?」
求めていたものとは少し違ったけれど。
それでも、ミーの笑顔を見ることができた。それだけで、もうアタシの心は晴れきっていた。
「もちろん!……だから、そのときまで。お願い、チカちゃん。」
いったい何のことなのか。そんなことは何もわからない。だけど。
「わかった。アタシは、ミーを信じるよ。」
そう、もう二度と、ミーを疑ったりなんかしない。
今度こそ信じきろうと、そう決めた。
「ありがとう。」
「うん。……さてと、それじゃ、もう行くね」
「え、行くって?」
「久しぶりに、走ろうとおもってさ。身体、なまってないといいけど。」
「あはは、そうだね。……がんばってね。」
「おう。任せときな。」
なんだか今日は、普段より何倍も速く走れそうな、そんな気がしていた。
「今、長谷さんとすれ違ったよ。……何かあったの?」
「え?」
「長谷さんもそうだったけど……、木村さんも、いつになくいい顔してる。」
「やっぱり、わかっちゃう?……うん、なんか、悩みが晴れたから。」
「そっか。いいよね、なんていうか。相思相愛、って言うのかな。」
「えぇっ!?何それ?」
「うーん、少し違うかな?でも、君たちを見てると、そんな言葉がしっくり来るとおもうんだ。」
「やめてよ。ただの友達だよ、チカちゃんは。」
「おーう、遅くな……なんだ、俺が最後か。」
「うん、そうだね。さっ、早く、作戦立てよっ」
「お、なんだ。いつになく積極的じゃないか。」
「そんなことないよ。ほらほら、早く。もう時間ないよ。」
「わーったって!とりあえず飯を食わせてくれ」
「長谷さん!」
聞きなれた叫び声に振り向くと、そこにはいつもの姿があった。
ここからじゃ線にしか見えないような細い指で、時計を指差している。
「おーう、リヒト!ありがとう!」
そう応えて片手を挙げると、微笑んだような気配が伝わってきた。
そのまま校舎に戻っていくリヒトを追いかけるように、アタシは部室に向かった。
午後の授業も何もなく終わり、放課後。
今日は、久しぶりに部活に復帰する。
二日も休んでしまった。代表落ちさせられないように、しっかりやらないといけない。
「チカ。もう出てきて大丈夫なのかい?」
「先輩。はい、もう大丈夫です。」
グラウンドに出るなり、アップしていた先輩が声をかけてくる。
「ま、昼休みも見てたけどね。あの様子じゃ、すっかり快調みたいじゃん。」
「う、見てたんですか」
グラウンドはどこの教室からも見える。だから、見られていたって何も不思議ではない。
それなのに、いざ見られていた、とわかるとなんだか気恥ずかしい。
「まぁねー。昼練なんてしてるヤツの方が珍しいんだから。
ま、調子悪そうだったら殴ってでも止めに行くかなーって思ってたんだけど。」
不穏なことを言いながら、先輩は豪快に笑ってみせる。
なんというか……。雪さんとは、また違った方向でお母さんっぽい。
「よーし。調子を戻すには競争が一番!とっととアップしといで。併走するよ」
「あ、待ってくださいよ!」
さっさと行ってしまう先輩を、あわてて追いかける。
「アニキ……っと、もう寝てんのかー。」
「気持ち良さそうな寝息たてやがってー。電気付けれないじゃないかー。」
「……俺も寝るかなー。」