「チカ?ちょっとこっち来なさい。」
「はっ、はい!どうかしましたか!?」
今日もいつものように走っていると、突然先輩に声をかけられた。
あわてて返事をすると、
「はぁ〜……。」
「な、何ですか突然。」
なぜか、思い切りため息をつかれてしまった。
「あんたねぇ。隠してるつもり?」
「いえ、その、何のことか」
「だ、か、ら。」
さえぎられた。
「今日のあんたの走りは最悪だっつってんの。」
「そんな!アタシの何が」
「チカ。本当に気づいてないわけ?本当に?」
両手で顔を挟まれる。先輩の目が、真正面にある。
「……ごめんなさい。」
あまりの迫力に押されて、なんとなく気まずくなり目をそらしながら謝る。
「よろしい。あんたはすぐ全身に出るんだから。で、今日は何を悩んでるの?」
ようやく、顔を開放された。
いまだ締め付けられた感触が残る頬を手で押さえながら
「あの、先輩。なんでそこまで」
「あんたはバカなの。大バカなの。わかる?」
疑問すら、最後まで言わせてもらえない。
むしろ、最初の一言の時点で言い返されていたような気がする。
「あんたはね、ちょっと悩んだ程度ですぐに上の空になるほどのバカなのよ?
そんなの、私じゃなくても気づくよ。」
「……アタシ、そんなにわかりやすいですか?」
自分が単純だということはわかっていた。
だけど、面と向かってここまで言われるとさすがにショックだ……。
「落ち込まない。少なくとも、私は褒めてるよ。バカだから、あんたはかわいいんだ。」
「先輩、それは」
褒めてないんじゃ。
「褒めてるの。喜びなさい。で?今日は何を悩んでるの。」
かなわない。先輩には、一生かないそうに無い。
雪さんといい、先輩といい、頭が上がらない人が多すぎる。
「先輩、さっき、アタシが悩んでたって言ったじゃないですか。」
「言ったわね。」
「その悩みの原因になった……、友達が居るんです。」
「オトコ?」
「違います。」
「わかってる。で?」
「わかってるなら聞かないでください。で、その子と」
「ケンカしてたわけね。」
「あの、なんで」
「わからないヤツはただのバカよ?」
「そ、そうですか?……それで、つい最近仲直りしたんですけど」
「それで最近は元気だったわけね。」
「はい。」
「だったらなんで、まだ悩んでるわけ?」
「それが、その……。今日の昼から、呼ばれてるんです。」
「その子に?」
「はい。でも、今日は」
「こンの……」
そこまで言うと、先輩は大きく息を吸い込んだ。
「バカッ!大バカ!!何度言わせれば気が済むの!?このバカ!」
直後、ありったけの大声で叫ぶ。
周りで活動していた人たちも、何事かとこちらを振り返っていた。
あまりの迫力と音量に、何かを言い返そうという気にすらなれなかった。
「確かにアンタは最近部活を休みすぎ!それに関しちゃ今後思いっきりしごくからいいの!」
でもね、とそこで一度、大きく息をつく。
「友達とのチャンスは今しかないの。後悔しても知らないからね。というか」
そこでもう一度、しっかりとアタシの顔を見て……盛大にため息をついた。
「アンタは、間違いなく後悔するわ。で、部活にも身が入らない。賭けてもいいよ。」
ものすごくめんどくさそうに言われてしまった。
「やっと行った、か。ほんと、何も考えられない子だね。」
何度も何度も頭を下げながら、やっとあの子は帰って行った。
全力で走っているのは、きっと無意識なのだろう。