「ただいまー。ごめんね、主役長く借りちゃって。」
やがて、木村さんと長谷さんが帰ってくる。
そして今度は、入れ替わるように一人、また一人と部屋を出てゆく。
全員が全員、部屋を出る直前に、僕の肩をたたいていく。
……ちょっと、露骨すぎやしないだろうか。
腹をくくれ、ということなんだろう。
たとえどちらであろうと、結論を出せ、と。
……言われなくても、わかっている。
そしてついに、長谷さんと二人きりになった。
せっかく皆が作ってくれたこんなに大きなチャンスを逃したくはない。
今しか、無い。
「あの」
「なぁ」
リヒトと、声がカブった。
なんだか、ひどく表現しづらい顔をして固まっている。
「……なぁ、ほかの皆はどうしたんだ?」
なんだか、全員が全員、部屋を出る前にリヒトの肩を叩いていた。
そして、一人、明らかにこっちを向いてニヤついているヤツが居た。
……言うまでもない、あのバカだ。
「うん、ちょっとね……。」
歯切れの悪い返事が、リヒトから返ってくる。
やっぱりこれは何かあった。
「リヒト、お前ひょっとして……」
名前を呼ぶと、肩が跳ねた。
これは、間違いない。
テーブルを回り込んで、リヒトの正面に行く。
正面から両肩を掴み、その顔を覗き込む。
リヒトはとっさに目を伏せ、アタシと目を合わせない。
「お前……」
リヒトの身体が、小刻みに震えている。
リヒトの顔が、赤い。
「いじめられているな!誰にだ!きくまでも無い、あのバカにだな!」
「は?」
両肩を捕まえたまま、強く揺する。
「安心しろ、お前は絶対護ってやる!」
いや、それだけじゃダメだ。とりあえず、目の前で殴って、謝らせて……
「ちょ、ちょちょっと待って!」
「大丈夫だ!何も心配しなくて」
「長谷さん!!」
リヒトの怒鳴り声を、初めて聞いた。
その声で、思わず手が止まってしまう。
「お願いだから、話を聞いて。」
「う、うん……」
これまたはじめてみる、リヒトの真剣な顔に気おされて、肩を捕まえていた手が離れる。
「大丈夫。いじめられてなんて居ないから。……ありがとう、心配してくれて。」
いつもの顔に戻って、弱弱しく微笑みながらお礼を言う。
だが、それも一瞬、ちょっとだけ険しい顔つきになる。
「でも、後でちゃんと謝ってね。疑ったことを。」
「う……、わかった。」
思わず歯切れの悪い返事をしてしまった。
でもリヒトは、それを聞いてまた微笑む。
「長谷さん。」
「うん?どうした?」
アタシを呼んだかと思うと、何故か深呼吸をした。
「長谷さんは、やっぱりかっこいいよね。」
「はっ!?」
突然何を言い出すんだ、こいつは。
「さっきだって。護ってやる、だなんて、初めて言われたよ。」
「えっ、ちょっ、いや、そんな」
それはアタシが勝手に勘違いしただけで、
というかトチって先走って挙句あのバ……ミツルを犯人扱いしてしまった汚点なわけで、
それをかっこいいだなんて言われると、なんていうか、ものすごく恥ずかしい。
「ね、長谷さん。」
「はいっ!?」
声が裏返った。情けない。
なんでリヒトは、こんなアタシをかっこいいだなんて言うんだろう。
「ごめんね、僕も緊張してて……うまく言葉がまとまらないから、簡単に言うよ。」
なにか、だいじなことをいおうとしている。
混乱しきった頭で、かろうじてそれだけを理解して、なんとか頭を働かせようと大きく深呼吸をする。
そして、リヒトの顔を、しっかりと見る。
リヒトと、目が合う。
「長谷さん。僕は君が……好きだ。」
「……え。」
「どこが、なんて言われると……説明ができない。ごめん。でも」
「君が好きだ。」
「え、と」
頭を、必死で働かせる。
今、リヒトは何って言った?
きみがすきだ
どういう意味だ?
きみがすきだ?
きみがすきだ
キミが好きだ?
リヒトは、何かが好きなのか?
キミ?
きみ、キミ、黄身……
君?
君が好きだ?
君ってだれ?
あ、アタシか。
え?
アタシが、好き?
え?
「……え。」
「──れでも、君が好きだ。」
次ははっきりと聞こえた。
一度もアタシから目を離さず、はっきりと、そう言った。
リヒトは、アタシが、好き。
「ご、ごめんっ」
思わず、叫んでしまう。
瞬間、リヒトが悲しそうな顔をする。
ちがう、そうじゃない。そんな顔をしないで。
「ちがっ、ごめっ、じゃなくて!えっと!」
落ち着け落ち着け落ち着け、いいから落ち着け!アタシ!
「リヒト、違う、ごめん!ダメじゃなくって!」
「……その、わかんないんだ、そういうのが。」
「わからない?」
「うん。好きだとか、そういうのが。ミーと、アキは、わかってるみたいだけど。」
あの日、アタシらが三人から五人になったバレンタイン。
ミーも、アキも、普段と雰囲気が違うことまでは気づいていた。
だけど、その理由が、イマイチわかってなかった。
「……リヒトのことは、嫌いじゃない。アキに、ミー。
……それから、あのバカ野郎たちとか。皆と同じくらい、大切だ。」
男と女が、「友達」を越えて仲良くなる。
その程度の認識ならあるけれど、認識以上の理解が無い。
だから。
「だから、今は……そのことがわかるまでは、友達、ってことで許してもらえないか?」
沈黙。リヒトの顔を見るのが怖かった。
それでも、目は逸らさなかった。
リヒトの表情は、読めない。
……が、ふと、笑ったように見
「っだぁー!『今は友達で居ましょう』とか、生殺しかぁぁぁぁぁ!お前それでも人間か!!」
ガタンッ、とすさまじい音がしたと思うと、大声で叫びながらバカが突撃してきた。
「ミツルくん、扉壊れちゃう!!」
直後に、ミーの叫び声が聞こえたかと思うと、続々と皆が戻ってくる。
「なっ、お前ら……」
イヤな予感しかしない。そして、その予感は
「あはは……、ごめんね。」
アキのその一言で確信に変わった。
つまり、聞かれていた、というわけだ。
さっきまでの静けさはどこへやら。
また、会場はにぎやかになる。
テーブルの上はいつの間にかユキさんの手によってお菓子へと変化していた。
「誰がイジメだ誰が。いくら俺でも怒るぞ。」
「お前が妙な態度を取るからだっ……う、ご……ごめん。」
リヒトとの約束どおり、アタシはミツルに謝ることになり
「友達かよー。なんでお前もっと踏み込まなかったんだよ。」
「おいおい、あんまイジってやるなって、イジメっ子。」
「おまっ!おまえまで何言ってんだ!」
リヒトはバカどもに囲まれ、困った顔で笑っている。