「あ」「あ」
二人の声が、同時に屋上に響く。
言葉が続かない。
チカちゃんの計らいで、本田君が屋上に来るというのはわかっていた。
だから、なんて言おうかも考えておいた。
でも。
いざ本人を目の前にすると、言葉が全部吹き飛んでしまった。
長い沈黙。
「あの……」「あのさ、」
また、同時に口を開いて、同時に黙る。
「ど、どうぞ」「そっちから。」
……沈黙。
「え、えっと、あの」
言葉にならない。
一度、小さく深呼吸をする。
「私、土曜日に、迷惑って言われちゃったけど……。
また、迷惑って思われてるかも知れないけど……。
でも。でも、せめて。私の気持ちだけでも伝えようと思って……。」
鞄から、包みを取り出そうとする。
あせっているせいか、なかなか取り出せなかった。
どうして、先に出しておかなかったんだろう。私の、バカ。
それでもなんとか取り出せた包みを、きちんと両手で持ち直して、差し出す。
「私、本田君のことが……。す……す、好き、です。」
ついに、言えた。
また、沈黙。
言えた事での安心が、また少しずつ不安にかわっていく。
やっぱり、迷惑だったのだろうか。
……言うまでもないか。
一度、面と向かって言われたことなんだ。
それなのに、友達を使ってまで呼び出されて。
迷惑に、決まってる。
でも、いいんだ。
そんなことは、わかっていた。
私は、気持ちを伝えられた。それだけで十分。
あとは、立ち去るだけ。
「うん、それだけ。……それじゃ……。」
「あっ」
あまりに唐突過ぎて、頭が完全に停止していた。
土曜日のこともあって、沈黙が否定として伝わってしまったようだ。
「ま・・・・・・待って!」
呼び止める。
「は……、はい……」
いかにも怯えた感じで振り向く。
怯えさせている原因は自分だ……。
「ご、ごめん……、その、土曜日。」
「……え?」
「邪魔だって、怒鳴ったでしょ。あれ……。」
木村さんは固まっている。
「嘘、というか……。っ、ごめん!なんて言えばいいかわかんないけど!
本心じゃないんだ!絶対に!」
上手く言葉が出てこない自分に苛立つ。
この期に及んで、まだ緊張している。
「実は、さ。あの日、木村さんに会えないかなって、思ってた。」
「えっ?」
「俺も、木村さんのこと、好きだった。いつからかはわからないけど。」
言うことにした。なんで、あんなことを言ってしまったのかを。
「それで、なんかいろいろ妄想しちゃってて。
まさか、本当に声をかけられるなんて思ってなかったから。
……その、本当に、ごめん。」
確実に「変なヤツ」だと思われただろう。
それでも、いい。
自分がつけた傷を、少しでもマシにできるんだったら。
「ははっ、ごめんな。勝手な妄想で傷つけちゃって。
こんな変なヤツ、イヤだろ?」
ムリヤリに笑って、歩き出す。
絶対に、今度こそ嫌われたはずだ。
もう、一秒でも木村さんの前にいたくはなかった。
「待って!……また、私を傷つけるの?」
「は……?」
思わず足が止まる。
「本田君、言ったよね?私のことを考えてたって。私のこと、好きだったって!
今はもう、違うの?私のこと嫌いなの?」
「何を……。嫌ってるのは、君のほうだろ?」
わけがわからない。俺は、完全に嫌われたはずだ。
「なんで?なんで私が本田君を嫌うの?
私、好きだったって言われて、すごくうれしかったのに。
なんで、嫌ってるだなんて言われなきゃならないの?」
だって、俺は、勝手な妄想で、木村さんを傷つけて
「私、確かにあの時は傷ついてた。悲しかった。
だけど、本田君、言ってくれたじゃない。
あれは、本心なんかじゃなかったって!
それも……、嘘なの?」
「本田君、勘違いしてる。
私、そのくらいで本田君のこと嫌いになんかなったりしない。
……バレンタインに女の子が渡すチョコレートの意味、知ってる?」
なんで、本田君はあんなことを言うんだろう。
私の気持ちは、いつだって、ずっと、一緒なのに。
「私は、本田君のことが好き。だから。今日も渡そうってずっと思ってた。
答えて。本田君は、もう、私のこと嫌いなの?」
思い切ってみた。
もう、自分を抑えることができなかった。
「好きだよ!好きに……、決まってる。」
「だったら……。」
言葉が続かない。
それっきり、屋上は沈黙が続いていた。