「……でもお前は男なのか本田ァァァアァァーーーー!!」
急に聞こえてきた怒声に、驚いて振り向く。
声の主は、横山満君。このクラスのムードメーカー。
一年生の時に同じクラスだったけど、まったく変わっていないみたい。
「ハハハ。またか、アイツは。」
チカちゃんが苦笑いを漏らす。
「ちょっと、びっくり……。」
アキちゃんは胸を押さえている。でも、顔は笑っている。
みんな、もう一年が過ぎようとしているから、慣れっこになっている。
いつも唐突だから、驚いちゃうけど。
「ミー。本田君、男じゃないんだってさ。」
チカちゃんがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「うーん、そんなわけないと思うんだけど。」
あはは、と笑いながら応える。
「でもミー、今年は土曜日だよ?」
しばらく笑っていると、思い出したようにアキちゃんが言う。
「うーん、そうなのよね。わざわざ家にまで行くのも不自然だし……。」
「別に、十三日でいいと思うけどね。」
「だーめ。」
アキちゃんの提案を遮る。
「十四日じゃないと意味がないの。」
「こだわるね。」
「乙女、ですから。」
胸を張って言うと、笑われてしまった。
しばらく不満そうな顔をしてみるけど、やっぱり私も笑ってしまう。
「てかさ、ミー。あんた本命だけしか作らないワケ?」
「そうじゃないと意味ないでしょ?」
「そうかぁ?アタシなんか、後輩とか男友達なんかにもやるけどなぁ。」
すぐに否定されてしまう。
「私も、後輩くらいには、あげるかな。」
「えー、アキちゃんも?」
少し意外。アキちゃんは内気なタイプだったから。
「うん、挨拶みたいなものだから。」
「そうかぁ。やっぱ、私も」
そのとき。
「それでもお前は男なのか本田ァァァアァァアァァアアァ!!」
今日二度目の雄たけび。
今回は、さすがに耳をふさいだ。
「ばいばーい、チカちゃん。」
「チカちゃん、ばいばい。」
「おう。また明日な。」
チカちゃんは私とアキちゃんとは家の方向が逆になる。
だから、校門でお別れだ。
「ミー、今日授業聞いてなかったでしょ?」
「あ……。わかった?」
「うん。後ろからでもよくわかった。」
くすくすと笑いながら、今日の授業態度のことを言う。
「あの人にあげるチョコのことを考えてたでしょ。」
「あはは、……あたり。」
アキちゃんに指摘されたとおり、今日の授業はまったく聞いていなかった。
市販のいいものを渡すか、それとも、頑張って手作りにするか。
そのままチョコでいくか、ケーキにするか。
形はどうしよう、とか。
「ミー、そんなので、大丈夫なの?」
「え?」
突然、心配そうな声になる。
「ほら、お姉ちゃんと同じ高校に入りたいって言ってたでしょ?
あそこ、レベル高いって有名だよ。」
「う……。」
お姉ちゃんが通う高校は、比較的自由な校風が人気の私立高校。
その代わり、妙にレベルが高い高校だ。
「うん、わかってる。けど、今だけは……。ね?」
「……はぁ。」
と、アキちゃんがため息をつく。
呆れられちゃったかな?
「しかたないな、ミーは。」
でも、返ってきたのは違う答え。
「今は忘れててもいいけど、そのかわり、後で今の分もきっちり見てあげるからね?」
「あはは……」
つい、苦笑で返してしまった。
アキちゃんは、実は学年でトップクラスの実力を持つ優等生。
「ありがとう、アキちゃん!」
思わず漏れた苦笑を隠すように、アキちゃんに抱きついてみせる。
「ちょ、ちょっとミー、あぶないって……」
歩道で、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
やっぱり、持つものは友達だ。
なーんて、ちょっと現金、かな?