「ふぁ……」
もう朝か?
そう思って時計に目をやる。
時計の針は二本とも上を向いている。
なんだ、まだ十二時か。
それにしては、明るいような……?
窓の外に目をやる。
明るいわけだ。
やっと、今が午後の十二時だとわかった。
別に、何をするわけでもないのだけど、とりあえず昼飯を食べて外へ出る。
十四日、バレンタイン、か。
別に、何かを期待しているわけじゃない。
わけじゃ……、ないはずなんだけど……。
妙な妄想に襲われてしまう……。
そりゃあさ。
ここで偶然にも憧れのあの子と出会ってさ。
「あの、これ受け取ってください。」とか言われてさ。
そんな夢みたいなこと、起きたらいいなとは思ってるさ。
でも、ありえねーよなぁ。
はぁ〜、と、ひときわ大きなため息をつく。
「あ、あの、本田君……。」
あぁ、ついに幻聴が……。
「え、えーと、本田君?」
あーもう、消えてくれ。幻覚の分際で俺にまとわりつくな。
「消えろよ!これ以上俺を悩ませるな!」
叫んで、幻を振り払うように振り返る。
そこに居たのは、幻ではなく
「ご、ごめんね……。私、迷惑……、だったんだ……。」
本物の木村さんがいた。
目に一杯の涙をためて。
「え、あ……、ごめ」
「ごめん……、なさい……。」
俺は、走り去る彼女に、どうしても声をかけられなかった。