1年ってのは、早いもんだな。
これが、今の正直な気持ちだ。
……。
気持ちって言うのかな?
12月26日
高校に入学してから、もう年が明けようとしている。
本当に、信じられない速さだ。
まるで、入学したのが昨日のように思えてくる。
……。
今日、朝何食べたっけ。
冬休み。
暇なので、どうでもいいことを考えながら散歩している。
部活もやってないし、とりわけ勉強熱心なわけでもない。
だから、暇なのだ。
見慣れた風景が流れていく。
ただ、いつもと少し違うのは、雪が積もっていることだ。
道路も白い。
本当に、珍しいことだ。
この風景の流れ方を見るに、どうやら僕の足は公園に向かっているようだ。
買ったばかりのあんまんの袋を抱えている。
この珍しい雪景色を、公園でゆっくり楽しもうというつもりだ。
それにしても。
買いすぎた……。
とても一人では食べきれない。
まぁ、いいか。アニキでも母さんでも父さんでも、誰にでもあげればいい。
そんな事を考えながら歩いていた。
その時は、
まさか、公園であんなものを見るなんて、
想像もつかなかった。
公園に入ったとき、僕は危うくあんまんを落としかけた。
無理も無い、と思う。
普通の人なら、絶対に落とすはずだ。
なぜなら。
雪の中に、人が倒れていた。
僕は急いで走りよった。
髪が長い。それに、スカート。
多分、女の子のようだ。
「ちょっ……、ねぇ、大丈夫?」
とりあえず、声をかけてみる。
……返事は無い。
呼吸はしているから、最悪の事態はないと思う。
だから、今度は肩に手をあて、軽くゆすってみる。
「どうしたの?ねぇ、僕の声、聞こえる?」
……ここで、フと思う。
頭を打っていた場合、動かしてはいけなかったような……。
「う……、ん。ん……。」
女の子が僅かにうめく。
どうやら、意識は戻ったようだ。
「大丈夫?君、ここに倒れてたんだよ。わかる?」
とりあえず、本当に大丈夫なのかを確かめようと、声をかける。
僕に気づいた女の子は、驚いたように肩をすくめると、
「え……、あ。私……、また……。
あ、その、ありがとうございます。」
と、数回視線をさまよわせたあと、こっちを向いて頭を下げた。
と。
くぅ〜。
今、妙な音が聞こえた気がした。
見ると、女の子がうつむいている。
顔が赤くなっているのがよくわかる。
「あはは。まさか、おなかがすいて倒れてたとか?」
うつむいたまま、ブンブンと首を振る。
「そんなわけないか。ベンチに座ろ。あんまん、あるんだ。」
そういって、僕はベンチのほうへ歩いていく。
当然、ベンチには雪が積もっていたけれど、お構いなしに払う。
そのまま、腰掛けて、女の子を手招きする。
「おいでよ。遠慮しなくていいからさ。買いすぎて、どうしようか迷ってたんだ。
あ、それとも……、甘いもの、苦手?」
女の子は首を左右に振ると、少し考えてから、こっちへ歩いてくる。
そして、僕と少し間隔をあけて座る。
「はい。」
袋からあんまんを取り出し、女の子に渡す。
「ありがとう。」
そういって受け取った彼女の手は、雪のように白かった。
……なんて、雪が積もってるから言ってみただけだけど。
昔マンガか何かで見て、かっこよかったからなんか言ってみただけだけどっ。
……それにしても、本当に白い。
「私の手に、何かついてますか?」
あまりに見つめすぎたのか、彼女は不思議そうに自分の手を見ている。
「あ、いや、気にしないで。」
ごまかしきれていない言葉を返しながら、慌てて自分のあんまんを取り出した。
「ごちそうさまでした。」
女の子がペコリと頭を下げる。
「うーん、食べたなぁ。やっぱり、一人で食べるより断然おいしいや。」
言いながら、なんとなく立ち上がる。
「そうだ。君、名前は?」
なんとなく訊いてみる。
「澄沢香奈(スミサワカナ)っていいます。この近くの高校で、1年6組です。」
「え、きみもそこなの?僕は白木光弥(シラギミツヤ)。1年5組なんだ。
……って隣じゃん。それにしては、会ったこと無いね。」
「そうですか?私はちゃんと学校行ってますよ?
それでは、ごちそうさまでした。」
彼女はそういってまた頭を下げると、立ち上がって公園から出て行った。
「あ、うん。じゃあね。」
僕は、彼女がほんの一瞬だけ見せた表情を、見逃していた。