5日目


「これで、三対二だね。」
「うーん、負けてしまいましたね。」
あはは、とどちらからとも無く笑って、ベンチに向かう。
「いつごろから待っていたんですか?
 まさか、昨日私があんなこと言うから、早く来たんですか?」
イタズラっぽい笑顔で訊いて来る。
「残念。僕はあんまりそういうことは気にしないんだ。ついたのも今さっきだよ。」
「……昨日は気になるって言ってませんでしたっけ?」
「その場のノリだよ。」
「なぁんだ。」
軽いため息。

「白木君って、映画とか好きなんですか?」
唐突に、こんな質問があった。
「え?まぁ、嫌いじゃないけど。」
「どういうものをよく観るんですか?」
「そうだなぁ……。」
僕は記憶の中から観たことのある映画を思い出す。
実は、ジャンルは問わず、雑多に観ている。
暴走トラックを止めた男の話、古代ローマでの闘いの話。
学生たちの間で起こる怪現象の話、ドタバタコンビの英雄譚、などなど。

「よかったぁ。」
とりあえず何個か名前を挙げてみると、唐突に彼女が呟く。
「え?」
その意味がわからず、僕は反射的に訊き返した。
「いえ、あの……。明日って、空いてますか?」
「明日って、大晦日、だよね。うーん、空いてるとは思うけど。」
「それなら、映画を観に行きませんか?ちょうど、白木君も観てないものだと思うんです。」
あぁ、なるほど。かぶってないかを心配してたのか。だから、よかっ……
「って、ええぇぇぇぇ!?」
思わず、叫んでしまった。
「え、え?あの、ダメ、ですか?」
突然の大声に驚いた彼女が、次第に小さくなっていくのがわかる。
「あ、いや、全然ダメじゃないよ!」
慌てて否定する。
「ただ、」
「ただ?」
彼女が反復する。
「ちょっと、驚いたから。いいの?僕なんかで。」
そう訊くと、彼女はイタズラっぽい笑みになる。
「ほかに、一緒に行く人が居ないからですよ。
 しゃーなし、ってやつです。」
「うわ、何それ。ひどいなぁ……。」
苦笑しながら返す。
「あはは、冗談ですよ。」
僕の反応を楽しむようにころころと笑うと、突然笑いを収めて、真剣な顔になった。
「白木君とだから、行きたいんです。」
これにもまた、僕は苦笑で返す。
「うーん、それはそれで、恥ずかしいんだけど。」
「もう、どうすればいいんですか?」
二人して、軽くにらみ合う。
そして、やっぱり、
同時に笑い出す。

「それじゃあ、明日の朝、ここで。」
彼女は、そう言って帰っていった。
朝、か。少し苦手だけど、遅れないようにしないと。

「ただいまぁー。」
家に着く。
「母さん、僕、明日朝から出かけてくるから。」
「何お前。このクソ忙しいときに出かけるってか。」
母の代わりに、アニキが反応する。
「うっせー。もう約束したんだから。」
まったくこいつは、と呟いてアニキが首を振る。
そして、小指を立てる。
「コレか?」
「バーカ。」
いつかしたやり取りをして、部屋に戻る。





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