6日目


「おはようございまーす。……今日は、私の負けですね。」
「うん、おはよ。そうみたいだね。」
彼女の明るい声に対して、少々ボケっとした声で応える。
なんとか遅刻はしなかったものの、やっぱり朝は苦手だ。
「ところで」
ぼーっとする頭を切り替えようと、話しかける。
「何を観るの?」
「えーっとですね……。」
彼女は手提げ鞄を探る。
「あ、ありました。これです。」
そういって見せられたチケットは、
「……。」
知らなかった。
「あ、やっぱり知りませんでしたね。でも、結構面白いらしいですよ?」
まぁ、物は試しと言うし……。と、いうことで
「そろそろ行く?」
「はい。」

公園から徒歩十分で駅。さらに普通列車で十五分。
その後、駅からまた歩いて五分で映画館だ。

「ふぅ、やっとつきましたね。」
そう言って、彼女はふうと息をつく。
「大丈夫?なんか息切れてるけど。」
「ええ、大丈夫です。」
軽く頷いて、僕らは映画館に入っていった。

「うわぁー、ひろーい!」
子供のようにはしゃぐ彼女に、ボソリと。
「もしかして、映画館初めて?」
ギクりと身体を止めると、少しもじもじしてから
「実は、その……、そう、なんです。」
と、顔を赤くしながら頷いた。

もうすぐ上映だったので、チケットを渡して中に入る。
二人並んで席に座り、上映まで少し待つ。
やがて、上映が始まる。


それは、一人の男の物語だった。
彼は、人に好かれないことをやっていた。
周りからは、邪魔だ、物騒だ、怖い、なぜそんな道なんかに、と、負の言葉だけが降り注いだ。
それでも、男は自分のやっていることに迷いなどは無かった。
誇りを持ち続けていた。

ある日、男の住む街にテロリストが入り込む。
彼らの大義名分は「世直し」。
テロリストは街の中心にあるシンボルタワーに立て篭もり、街中を恐怖に陥れる。
それを、男が単身突入し、自分の命を犠牲にしてテロリストを倒し、ヒーローと呼ばれるようになる。

そういった内容だった。

「あの男の人、かっこよかったですね。」
映画が終わり、話しながら外に出る。
「うん。街中の人に嫌われているのに、命を捨てて街を守るなんてね。」
「でも、最後まで、俺の義務だ、なんて言ってましたね。」
「最期の最期まで、自分で抱いた正義感に縛られていたのかな。何か、寂しいな、そういうのって。」
「あれは、自分への言い訳だったのかもしれませんよ?」

今日わかったこと。
それは、二人とも、やけに深読みするタイプだ、ということだ。
そんな会話を続けながら、気づいたらもういつもの公園だった。
「うーん、帰ってきたねぇ。」
「そうですね……。」
二人して、映画の余韻に浸り続ける。
「……あ、そうだ。明日も、初詣に行きませんか?」
「初詣かぁ。いいねぇ。」
「それでは、明日の朝に。」
「うん、じゃあね。」





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